私が探偵業界に入り、率直に思うことは、探偵をしている人の多くは、報告書を書くのが苦手なんだなと思います。
私の事務所にたどり着いた相談者には、既に何社か探偵事務所に依頼していて次の調査からは追加料金になるからという理由で相談に来られる方が多いです。
そこで、私はこれまでの調査でどこまで判明しているのか話を聞き、相談者が依頼をした探偵社が作成した報告書を目にする機会があるのですが、大体どこの探偵社も調査したことを時系列に書いて、並べて写真を貼っただけのものがほとんどです。
そして表紙には、「極秘」と立派に書かれていたりするのですが。。。

この記事に書いてあるのはこんな事
報告書は何のために作るのか
私は、15年間警察官として働き、その内十数年間は刑事部門で事件捜査の担当をしていました。
ですので、私の場合は気づかない内に書類作成能力は身についていったのかなと思っています。
数えたことはありませんが300人くらいは逮捕したでしょうし、殺人現場も見てきましたし、振り込め詐欺のアジトに突入したこともあります。
警部補として事件捜査を統括する立場でしたので、警察の捜査のひととおりは経験してきたと思っています。
刑事の仕事は、ドラマのように外に出て仕事ばかりしている訳ではありません。
実際は、書類作成が非常に多い仕事で、書類作成に追われて外に出て犯人を追う捜査がなかなかできないというのが実情です。
家宅捜査する場合も、逮捕をする場合も、『この事件はコイツが犯人に間違いないから強制捜査の必要がある』という判明した事実を書類にして証拠化することで、裁判所に令状請求をします。
そして、裁判官が警察が主張するとおり、強制捜査の必要性があると判断されれば令状が発付されます。
つまり、報告書は掴んだ事実を証拠化するために作成するものです。
証拠になる資料にもいろいろあります。
①内偵捜査報告書(探偵でいう調査報告書)
②供述調書類(依頼者が自分で書いた記録メモ:私文書等)
⓷警察だからできる照会業務によって知り得る情報
と言ったところが証拠の代表例です。
上記⓵~⓷すべて証拠になり得ますし、①及び②は、やり方次第では証拠にならないことがあります。
原則、違法活動によって収集した証拠は、証拠として使えません。(令状によらない警察のGPS捜査が問題になりました)
報告書を書くポイント

どんな事案でも背景があるので、読み手側が報告書を読んいて、その背景が自然と浮かんでくる報告書がいい報告書です。
例えば、浮気調査の場合を例にしましょう。
探偵A:〇月〇日(土)〇時〇分、夫、自宅を出発、自家用車に乗り、A女と合流、デート後夕食を共にする、その後○時○分にホテルに入る
というように調査した事実を時系列にして、調査で撮った写真を貼っただけの調査報告書。
探偵B:文頭には、調査に至った理由を依頼者から面談した上で書きます。
例えばですが、『依頼者のA妻の情報によると、
・最近、夫は仕事から帰ってくるのが遅くなり、金遣いが荒くなった
・携帯アプリで知り合ったとみられる女性と今週の土曜日に会うメッセージが、夫がお風呂に入っている時に携帯画面にアップしたのが見えた
・しかも、その日は幼稚園の運動会の日にも関わらず仕事に行かなければならないと私に前もって言ってきた
などと、夫に浮気を疑う言動があったことから素行調査を行った』などと、この一文が入っただけで、同じ探偵Aの報告書を書いたとしても、読み手側の印象ってどうでしょうか?
旦那の悪質性が増さないでしょうか。
家庭を顧みず、子供の運動会にも応援に行かず、しかも嘘をついた上で携帯アプリで知り合った女と不貞しているんですよ。
離婚裁判になった時、夫が浮気の事実を認めない場合は、裁判官は探偵が作成した調査報告書を目にします。
その時の裁判官の印象は、探偵Aが作った報告書と探偵Bが作った報告書では、どう心証が違うでしょうか。
探偵Bが作成した報告書を読んだ裁判官は、夫は不貞した事実だけでなく、夫が家庭を省みていない事実もあったんだと当然に思うでしょう。
調査報告書は、調査した事実を時系列で並べて書いただけでは不十分です。
事実は事実ですが、依頼者の説明がないと背景が見えてこないからです。
報告書の表紙が立派とか、そんなことはどうでもよくて、大事なのは内容と分かり易さです。
事案の背景をきちんと書いて、読み手側がイメージしやすい報告書を作成する能力が探偵には必要です。
報告書にはどうやって書きなさいという決まりはありません。
依頼者の気持ちを汲んで書類にすることができるのも探偵ならではの技量だと私は思います。
私は、調査報告書を依頼者の方に読んでもらった時に涙をポロッと流してくれた時は、心境は複雑でしょうがウチに依頼して良かったと思ってくれてるのかなと判断してます。
TOARU探偵事務所 代表 西俊之